[開設 06/29/21=MM/DD/YY]

分割全体からなる束

ここでは, 「分割間の順序」に引き続き, 分割は 空集合を要素に持たないものとする. (参考:「集合族の例: 分割

さて,「分割間の順序」で, ( ℙX, ⊑ ) が半順序集合になることを見た.
ただし, ℙX は 集合 X の分割全体の族,すなわち

X = {P ∊2(2X) | P は X の分割 }
である. (ここでは, 空集合∅は分割の構成要素にはならないとしている. つまり, P が X の分割ならば ∅∉P ). また,
P ⊑ Q  ⇔  ∀PPQQ ( PQ )
であった.
ここでは, ( ℙX, ⊑ ) が束であることを示そう.


P, Q ∊ℙX のとき, 下の P ⊓QPQ の交差分割 (cross partition) という.

P ⊓Q  =  { PQ | PP , QQ }∖{∅} .
(これが X の分割であることの 証明).
例 1
X = {  a, b, c, d  } とするとき,
{  {a,b}, {c,d} } ⊓ {  {a,c}, {b,d} } = {  {a}, {b}, {c}, {d} },

{  {a,b}, {c,d} } ⊓ {  {a,b,c}, {d} } = {  {a,b}, {c}, {d} }
である. それぞれを 図に描くと下のようになる (ブラウザーによっては適切に表示されないことがあります).
図から, P ⊓Q は, P の境界線(切れ目)と Q の境界線 の両方を 境界線 とする分割になっていることが解る.

  a     b  
c d
  a     b  
c d
=
  a     b  
c d

  a  
b
  c  
  d  
  a  
b
  c  
  d  
=
  a  
  b  
  c  
  d  

命題 1
P ⊓Q は, { P, Q } の最大下界である.
問 1
命題 1 を示せ.  解答


上の命題 1 に ハンドアウト「半順序関係 (2)」命題 2 の証明を適用することによって, ℙX の任意の有限部分集合が下限をもつことがわかる. しかし, 実は 有限に限らず ℙX の任意の部分集合が下限をもつ.

命題 2
Pλ | λ∊Λ }⊆ℙX の下限 ⊓λ∊ΛP λ
λ∊ΛP λ = { ∩λ∊ΛPλ | PλP λ  }∖{∅}
で与えられる.
注: 一般に 順序集合では, sup {xλ | λ∊Λ } を ∨λ∊Λ xλ, inf {xλ | λ∊Λ } を ∧λ∊Λ xλ と書くことがある.

λ∊ΛP λX の分割であることの証明は, P ⊓QX の分割であることの証明と同様だが, 一応 ここ に示しておく. また, ⊓λ∊ΛP λ が { P λ | λ∊Λ } の下限であることの証明も, P ⊓Q が { P, Q } の下限であることの証明と同様だが, 一応 ここ に示しておく.


P, Q ∊ℙX のとき, P ⊔Q を { P, Q } の上界全体 { R ∊ℙX | P ⊑R, Q ⊑R } の下限とする. すなわち,

P ⊔Q = ⊓{ R ∊ℙX | P ⊑R, Q ⊑R } .
なお, P, Q ∊ℙX が何であっても, {X}∊{ R ∊ℙX | P ⊑R, Q ⊑R } である.
例 2
X = {  a, b, c, d  } とする.
まず, {  {a,b}, {c}, {d} } ⊔ {  {a}, {b}, {c, d} } を求めてみよう.
{ {  {a,b}, {c}, {d} }, {  {a}, {b}, {c,d} } } の上界は,
{ {  {a,b}, {c,d} }, {  {a,b,c,d} } }
であるから, その下限は {  {a, b}, {c, d} } である. したがって,
{  {a,b}, {c}, {d} } ⊔ {  {a}, {b}, {c, d} } = {  {a, b}, {c, d} }
である. 別の例も 1 つ挙げておこう (考え方はまったく同様).
{  {a,b}, {c}, {d} } ⊔ {  {a,c}, {b}, {d} } = {  {a,b,c}, {d} } .
これらを 図に描くと下のようになる(ブラウザーがOperaの場合,適切に表示されないことがあります).
図に描くことによって, P ⊔Q は, PQ の共通の境界線 だけを 境界線 とする分割になっていることが解る.

  a     b  
c d
  a     b  
c     d  
=
  a     b  
c d

  a  
  b  
  c  
  d  
  a  
  c  
b  
  d  
=
  a  
b
  c  
  d  

命題 3
  1. P ⊔Q は, { P, Q } の最小上界になっている.
  2. さらに, { P λ | λ∊Λ }⊆ℙX の上限 ⊔λ∊ΛP λ
    λ∊ΛP λ = ⊓{ R ∊ℙX | ∀λ∊Λ; P λR } .
    で与えられる.
命題 3 は, 上の命題 2 と 次の定理から 直ちに導かれる.
定理 1
半順序集合 (X, ≤) において, X の任意の部分集合が 下限を持てば, X の任意の部分集合は 上限をもつ. 特に, SX の上界全体の集合を U(S) とすると, supS = infU(S) である.
(なお, 任意の部分集合が上限と下限をもつ 半順序集合は 完備 (complete) であるという.)
問 2
定理 1 を示せ.  解答


命題 1 と 命題 3 より, ( ℙX, ⊑ ) は束である (しかも完備である).



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