[開設 07/03/23=MM/DD/YY]
付帯条件つき限定命題に関する注意
「∀x∈A; P(x)
⇒
∃x∈A; P(x)」
など一部の法則は,A が空集合のときには成り立たない.
ハンドアウトの§1 では,限定命題で限定する変数の変域を制限する方法について説明し,de Morgan 律
¬∀x∈A; P(x)
⇔
∃x∈A; ¬P(x),
¬∃x∈A; P(x)
⇔
∀x∈A; ¬P(x)
が成立することなど, 変域を制限しない限定命題と同様の性質を持つことを述べた.
しかし,ある特殊な場合には,変域を制限しない限定命題で成り立つ法則が
成り立たないことがあるので,注意しなければならない.
それは,例えば
∀x∈A; P(x)
⇒
∃x∈A; P(x)
である.これは,
集合 A が空集合でなければ成り立つが,
A が空集合のときには成り立たない.
集合 A が空集合でないときに成り立つのは,変域を制限しない場合
∀x P(x)
⇒
∃x P(x)
が成り立つのと同様である.
集合 A が空集合のときについて考えてみよう.
∀x∈A; P(x)
は
∀x ( x∈A ⇒ P(x) )
のことだった.
A が空集合ならば x が何であっても
x∈A は偽だから,条件命題の真理値表より
∀x ( x∈A ⇒ P(x) )
は真,すなわち
∀x∈A; P(x)
は真である.
一方,
∃x∈A; P(x)
は
∃x ( x∈A ∧ P(x) )
のことだった.
A が空集合ならば x が何であっても
x∈A は偽だから,∃x ( x∈A ∧ P(x) )
は偽,すなわち
∃x∈A; P(x)
は偽である.
P ⇒ Q
とは
P が真のときは必ず
Q も真となることだったから,
結局,
∀x∈A; P(x)
⇒
∃x∈A; P(x)
は成り立たないことになる.
変域を空集合に制限すると成り立たなくなる法則には,他にも
[∀x∈A ; F(x) ]∧P
⇔
∀x∈A [ F(x)∧P ]
[ ∃x∈A ; F(x) ]∨P
⇔
∃x∈A [ F(x)∨P ]
がある.これらについては,「変域の制限された限定命題に関する論理法則」を参照のこと.
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