[開設 07/03/23=MM/DD/YY]

論理法則
P ✻ ☆x Q(x)  ⇔  ☆xPQ(x) )

☆ は ∀ と ∃ のいずれでもよく, ✻ は ∧,∨,⇒ のいずれでもよい. また,P は変数 x を含まない.

2×3 = 6 通りの法則がある.
(1)
  P ∧ ∀x Q(x) ⇔ ∀xPQ(x) )
(2)
  P ∧ ∃x Q(x) ⇔ ∃xPQ(x) )
(3)
  P ∨ ∀x Q(x) ⇔ ∀xPQ(x) )
(4)
  P ∨ ∃x Q(x) ⇔ ∃xPQ(x) )
(5)
  P ⇒ ∀x Q(x) ⇔ ∀xPQ(x) )
(6)
  P ⇒ ∃x Q(x) ⇔ ∃xPQ(x) )
これらの法則は特に覚える必要はない. (下の説明を読んで)理解できれば十分である. ただし, ∀xA, ∃xA の記法を使った論理式を, 使わない論理式に戻すとき, 変域の制限をはずした ∀x や ∃x は全部 左に寄せられることは 知っておくと便利でしょう.
なお,
   ∀x Q(x) ⇒ P ⇔ ∀xQ(x) ⇒ P )

   ∃x Q(x) ⇒ P ⇔ ∃xQ(x) ⇒ P )

は成り立たない. その代わり,
(7)
x Q(x) ⇒ P ⇔ ∃xQ(x) ⇒ P )
(8)
x Q(x) ⇒ P ⇔ ∀xQ(x) ⇒ P )
が成り立つ. 法則 (7) と (8) は,なおさら覚える必要はない.

法則 (1)‐(8) を使うと, どんな論理式も, それと論理的に同値なままで, すべての限定記号を左端に寄せて ☆1x12x2 . . . ☆nxn ( … ) の形の論理式にすることができます (☆i は ∀ または ∃で, ( … ) には ∀ や ∃ は含まれない). この形の論理式を 冠頭標準形 (prenex normal form) と言います.
なお,このことは,この授業では 覚える必要はありません.

では, (日常的な論理にしたがって) 上の法則 (1)‐(8) を 一つ一つ確認していこう.
(1)  P ∧ ∀x Q(x) ⇔ ∀xPQ(x) )
(⇒)
  P ∧ ∀x Q(x) が真なら, P も真で, ∀x Q(x) も真である. ∀x Q(x) が真だから, 任意の x について Q(x) は真である. よって, 任意の x について PQ(x) が真だから, ∀xPQ(x) ) も真となる.
(⇐)
xPQ(x) ) が真なら, 任意の x について PQ(x) が真である. Px を含まないので, x に関係なく常に真である. 一方, 任意の x について Q(x) が真なので, ∀x Q(x) は真である. よって, P ∧ ∀x Q(x) は真である.

(2)
  P ∧ ∃x Q(x) ⇔ ∃xPQ(x) )
(⇒)
  P ∧ ∃x Q(x) が真なら, P も真で, ∃x Q(x) も真である. ∃x Q(x) が真だから, Q(a) が真となる対象 a が存在する. よって, PQ(a) が真だから, ∃xPQ(x) ) も真となる.
(⇐)
xPQ(x) ) が真なら, ある対象 a について PQ(a) が真である. よって,P は真である. また, Q(a) が真なので, ∃x Q(x) は真である. 以上から, P ∧ ∃x Q(x) は真である.

(3)
  P ∨ ∀x Q(x) ⇔ ∀xPQ(x) )
(⇒)
  P ∨ ∀x Q(x) が真なら, P と ∀x Q(x) のうち少なくとも一方は真である. そこで場合分けをする.
P が真の場合.
P が真だから, 任意の x について PQ(x) は真だから, ∀xPQ(x) ) も真となる.
x Q(x) が真の場合.
x Q(x) より, 任意の x について Q(x) が真だから, 任意の x について PQ(x) も真となる. よって, ∀xPQ(x) ) も真である.
以上から, いずれにしろ ∀xPQ(x) ) は真である.
(⇐)
最初から, P が真の場合と偽の場合で 場合分けをする.
P が真の場合.
P が真なので, 当然, P ∨ ∀x Q(x) も真である.
P が偽の場合.
xPQ(x) ) が真であるという仮定から, 任意の x について, P または Q(x) が真となる. しかし,いま P は偽としているので, 任意の x について Q(x) が真でなければならない. よって, ∀x Q(x) は真である. したがって, P ∨ ∀x Q(x) も真である.

(4)
  P ∨ ∃x Q(x) ⇔ ∃xPQ(x) )
(⇒)
  P ∨ ∃x Q(x) が真なら, P と ∃x Q(x) のうち少なくとも一方は真である. そこで場合分けをする.
P が真の場合.
P が真だから, 任意の x について PQ(x) は真となるので, 当然, PQ(x) が真となる x は存在する. よって, ∃xPQ(x) ) も真となる.
x Q(x) が真の場合.
x Q(x) より, ある対象 a について Q(a) は真である. よって, PQ(a) も真となる. よって, PQ(a) が真となる 対象 a があったので, ∃xPQ(x) ) も真である.
以上から, いずれにしろ ∃xPQ(x) ) は真である.
(⇐)
  最初から, P が真の場合と偽の場合で 場合分けをする.
P が真の場合.
P が真なので, 当然, P ∨ ∃x Q(x) も真である.
P が偽の場合.
xPQ(x) ) が真であるという仮定から, P または Q(a) が真となるような 対象 a が存在する. いま P は偽としているので, Q(a) が真でなければならない. よって, ∃x Q(x) は真である. したがって, P ∨ ∃x Q(x) も真である.

注:
de Morgan 律を使うと, (1) と (4) が互いに一方から他方が導け, (2) と (3) も互いに一方から他方が導ける.
例として, (1) を使って (4) を導こう (他も同様である).

P ∨ ∃x Q(x) ¬¬P ∨ ∃x ¬¬Q(x) ∵ 二重否定律
  ¬¬P ∨ ¬∀x ¬Q(x) ∵ de Morgan 律
  ¬ [ ¬P ∧ ∀x ¬Q(x) ] ∵ de Morgan 律
  ¬ ∀x [ ¬P ∧ ¬Q(x) ] ∵ (1)
  x ¬ [ ¬P ∧ ¬Q(x) ] ∵ de Morgan 律
  x [ ¬¬P ∨ ¬¬Q(x) ]    ∵ de Morgan 律
  xPQ(x) ] ∵ 二重否定律

(5)
  P ⇒ ∀x Q(x) ⇔ ∀xPQ(x) )
P ⇒ ∀x Q(x) ¬P ∨ ∀x Q(x) ∵ 条件命題の選言表現
  x ( ¬PQ(x) )    ∵ (3)
  xPQ(x) ) ∵ 条件命題の選言表現

(6)
  P ⇒ ∃x Q(x) ⇔ ∃xPQ(x) )
P ⇒ ∃x Q(x) ¬P ∨ ∃x Q(x) ∵ 条件命題の選言表現
  x ( ¬PQ(x) )    ∵ (4)
  xPQ(x) ) ∵ 条件命題の選言表現

(7)  ∀x Q(x) ⇒ P ⇔ ∃xQ(x) ⇒ P )
x Q(x) ⇒ P ¬∀x Q(x) ∨ P ∵ 条件命題の選言表現
  x ¬Q(x) ∨ P ∵ de Morgan 律
  xQ(x) ∨ P )    ∵ (4)
  xQ(x) ⇒ P ) ∵ 条件命題の選言表現

(8)
x Q(x) ⇒ P ⇔ ∀xQ(x) ⇒ P )
x Q(x) ⇒ P ¬∃x Q(x) ∨ P ∵ 条件命題の選言表現
  x ¬Q(x) ∨ P ∵ de Morgan 律
  xQ(x) ∨ P )    ∵ (3)
  xQ(x) ⇒ P ) ∵ 条件命題の選言表現


離散構造(室伏)のホーム
murofusi "at mark" c "dot" titech "dot" ac "dot" jp ("at mark" -> @ / "dot" -> .)