[開設 07/03/23=MM/DD/YY]

2項関係としての写像

現代数学では, 写像は特殊な2項関係として定義される. ここでは それを説明しよう.

写像のグラフ

fX を定義域とする写像であるとき, 下式で定まる集合 Gff のグラフという.
Gf = { ( x, f(x) ) | xX }  ( = { ( x, y ) | xX, y = f(x) }).
f の定義域も値域も実数の集合のとき, Gf を 2 次元座標に描いたものが, 通常の関数のグラフである.
f を写像とするとき, 次の (∗) が成り立つ.

(∗)  写像 f と そのグラフ Gf は 1 対 1 対応の関係にある.

写像 f から,そのグラフ Gf は上の式によって 定まるが, グラフ Gf から 写像 f を 再構成できる. まず, f の定義域は

{ x | ∃y s.t. (x, y)∊Gf }
である. 上の集合を Dom(Gf) と書く. グラフの定義から, 定義域 Dom(Gf) の各要素 x に対して,
y = f(x)  ⇔  ( x, y ) ∊ Gf
が言えるので, f の値もグラフ Gf からわかる(これは 2 次元座標上の通常の関数のグラフから, x に対する f の値を読みとるのと同じことである).

2項関係としての写像

現代数学(公理的集合論)では, すべての数学的存在物は集合である. そこでは, 写像は, 以下のように グラフ Gf として 定義される. (上の (∗) より, このように定義しても何ら問題は生じない.) すなわち,
fX から Y への写像である  ⇔  fX × Y かつ ∀xX ∃! yY s.t. (x, y)∈f       (∗)
と定義されるのである. つまり, 集合 X から集合 Y への写像は, 条件「∀xX ∃! yY s.t. (x, y)∈f」 を満たす, X から Y への特殊な関係なのである. そして, f が写像のとき, xX に対して, ( x, y ) ∊ f を満たす一意的な yf(x) と書く. このとき,
( x, y ) ∊ f  ⇔  y = f(x)
である.

写像の合成と関係の合成

写像 f : XYg : YZ から合成写像 gf : XZ を作ることができる. h = gf としよう.
一方, fg はそれぞれ関係 fX×YgY×Z でもあるから, これらの合成関係 fgX×Z を作ることもできる.
さて, h : XZ も関係 hX×Z であり, 合成関係 fgX×Z と比べてみると,
(x, z)∊fg ⇔  yY s.t. (x, y)∊f ∧ (y, z)∊g
⇔  yY s.t. y = f(x) ∧ z = g(y)
⇔  z = g(f(x))
⇔  z = h(x)
⇔  ( x, z ) ∊ h
であるから, h=fg である. つまり, 合成写像 gf と 合成関係 fg は同じものなのである. 写像と関係では 合成の書き順が逆になっているのである.

なぜ こんなややこしいことになっているかというと, 私見だが, 写像が関係の特殊ケースだと発見されたのが つい最近で, それまでは 写像と関係は別のものとされていたからではないかと思う.
それぞれの記法としては, 関係は x R yy S z と書くので, 合成を x (RS) z と書くのは自然だし, 写像も f(g(x)) を fg (x) と書くのは自然なのだから.
例えば, はじめから写像の方で, f(x) を x f と書いていれば, 合成も x f g と書けて, 書き順が関係の場合と一致したのだが,,,
(なお,現代数学では, 合成写像 fgfg と書く場合があり, また, f(x) を x f と書く研究者もいる.)

逆写像と逆関係

逆写像と逆関係の間の関係についても, 上記の合成ほどは ややこしくないが, 若干 注意が必要である.
写像 f : XY を写像とする. 逆写像 f −1 : YX が存在するのは, f が全単射のときであり, かつ そのときだけである. 一方, f は関係 fX×Y でもあるから, 常に逆関係 f −1Y×X が存在する. この関係 f −1Y×X は必ずしも Y から X への写像ではない. つまり,逆関係 f −1 は, 必ずしも上記の写像の定義 (∗) の右辺(の「かつ」の右側)の条件を満たすとは限らない. 逆関係 f −1 が, (∗) の右辺(の「かつ」の右側)の条件を満たすための必要十分条件は, 写像 f : XY が全単射であることである. なぜなら, 逆関係の定義から (y,x)∊f −1 ⇔ (x,y)∊fy=f(x) なので,これを (∗) の右辺の「かつ」の右側の条件に代入すると
yY ∃!xX s.t. (y,x)∊f −1  ⇔  ∀yY ∃!xX s.t. y=f(x)
となり, fX から Y への写像であることに注意すると, 上式右辺は f : XY が全単射であることを意味していることが解るからである. また,このとき,逆関係 f −1 は 逆写像 f −1 に一致する. なぜなら, 任意の xX, yY について
y=f(x)  ⇔  (x,y)∊f (∵ f は関係であるから)
⇔  (y,x)∊f −1;  (∵ 逆関係の定義)
⇔  x=f −1(y) (∵ f −1 は写像でもあるから)
だからである.

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