[開設 07/03/23=DD/MM/YY]
「任意に固定する」とは どういうことか.
例で説明しよう.
X×Y
=
Y×X
⇒
「X
=
Y
または
X
=
∅
または
Y
=
∅」
の証明.
- 証明
-
X×Y=Y×X
を仮定し,X≠∅
かつ Y≠∅
とする.このとき,X=Y
を示せばよい.Y≠∅
だから y0∈Y
なる y0 が存在する.
任意に x∈X
を固定すると,直積の定義から
(x,y0)∈X×Y
なので,仮定 X×Y=Y×X
より (x,y0)∈Y×X
となる.よって,直積の定義から x∈Y
である.以上で,「任意の x について,
x∈X ならば x∈Y」が言えたので,包含関係の定義から
X⊆Y である.同様に Y⊆X
も言えるので,包含関係と等号の関係(「離散システム論」資料「集合」命題 1 (2) )から
X=Y
である.(証明終)
上の証明で「任意に x∈X
を固定する」のは,
「任意の x について,x∈X ならば
x∈Y」
(記号で書くと
∀x (x∈X ⇒ x∈Y)
であり,これは
X⊆Y
の定義)
を示すためである.
ここで,
「任意の x について,x∈X ならば
x∈Y」
中の
仮定「x∈X」の x
と
結論「x∈Y」の x
は
同一の対象 x
であることに注意されたい.
さて,「任意の x について,x∈X ならば
x∈Y」を示すために,X の要素
x
を任意に取ってきて,この x
が
Y
の要素であることを示すのであるが,「任意に」とは「思うまま」とか「勝手に」という意味だから,取ってくる
x
は
X
の要素なら何でもよい.しかし,何でもよいからといって,証明の途中で勝手に動かしてはいけない(変えてはいけない).なぜなら,証明しようとしている「任意の
x について,x∈X ならば
x∈Y」中の
仮定「x∈X」の x
と
結論「x∈Y」の x
は同じ対象 x
なのだから.もし,「任意」だから,つまり
何でもよいからといって,証明の途中で勝手に変えてしまうと証明にならなくなってしまう.もう少し具体的に書くと,
「任意に x∈X を固定する」
の
x,
「直積の定義から
(x,y0)∈X×Y
なので」の
x,
「仮定 X×Y=Y×X
より (x,y0)∈Y×X
となる」の
x,
「よって,直積の定義から x∈Y
である」の
x
をバラバラの異なる要素にしてしまったら証明にならない.仮定「任意に
x∈X を固定する」で取ってきた
x は任意なのであるが,結論「よって,直積の定義から
x∈Y
である」が出てくるまで同一の
x に固定されているのである.
「任意に x∈X
を固定する」
という言い回しは,
x
は
X
の要素であり,X
から取ってくるときには勝手に取ってくるが,一度 取ってきたら
その後は変えない
ということを意味している.この
取ってくるときには勝手に取ってくるが,一度 取ってきたら
その後は変えない
ということを強調するために,
任意に
固定する
という言い回しを使うことがあるのである.
上の証明の下線部なら,
x∈X
を任意に固定する,
任意に
x∈X
を固定する,
x
を
X
の任意に固定された要素とする
などといった表現となる.なお,英語なら
Let
x∈X
be fixed arbitrarily.
Let
x
be an arbitrarily fixed element of X
といった感じになる.
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